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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第13章 第五話 【夏霧】  其の弐
 おきみは柳橋芸者を母として生まれたという。母は当時、よし乃と呼ばれた売れっ妓で、二十代半ばで深川の廻船問屋の隠居に落籍(ひか)されて、手活けの花になったという。おきみが生まれたのはその一年ほど前のことで、その父親はよし乃を妾とした隠居ではなく、名もない若い足袋職人であった。廻船問屋の隠居という馴染みがいながら、よし乃は若い職人と恋に落ちていたのであった。
 しかし、その恋も長くは続かなかった。密かな逢瀬を重ねていた二人の仲に、よし乃を抱えている茶屋の女将が気付いのだ。女将は大切な商売道具であるよし乃に悪い虫がついては大変と、一計を案じた。よし乃を呼び出し、恋人と別れなければ、人を使って男を亡き者にしてやると脅したのである。そのため、よし乃は泣く泣く男と別れた。
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