パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第13章 第五話　【夏霧】　　其の弐

「おきみ」
　今度は大声で呼ばわると、おきみが振り向いた。
　喜六郎とおきみの視線が白い霧の中で一瞬熱く絡み合った。
「達者でやれよ」
　喜六郎は風呂敷でくるんだ重箱をそっと差し出した。それは喜六郎が夜通しかけてこしらえた二人分の弁当であった。「花がすみ」の主人喜六郎が丹精込めて作り上げた一世一代の料理ばかりである。
　昨日、おきみとここで長い立ち話をした後、お彩は帰って喜六郎に告げたのだ。おきみから聞いた一切の真実とおきみが明日の早朝、江戸を発つこと、すべてを洗いざらい話して聞かせた。