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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】  其の壱
 しかし、浄徳はそれらの栄誉をすべて丁重の辞退、市井で民と共に生きることを選び、一生を布教に捧げた。その豪放磊落な情に厚い和尚の数々の逸話は随明寺の金堂正面に掲げられる額「浄徳大和尚一代記」という一連の縁起よって今に伝えられる。
 その夜も夜四ツ 午後十時 をはるかに過ぎるまで、「花がすみ」は大勢の客で賑わった。最後の客を送り出し、お彩は千鳥足の客が酔っ払って細い道の向こうに消えるのを表で見守った。「花がすみ」では料理だけでなく酒も出すが、基本的に飲み屋ではないので、浴びるように呑む客はいない。今夜最後の客となったお店者風の二人連れは常連ではないけれど、どうやら、ここに来る前に縄暖簾でかなり呑んできたようであった。
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