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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】  其の壱
 お彩も伊勢次の朴訥さを好ましくは思っていたけれど、それはあくまでも友達か、あるいは兄に対するような親近感であって、けして異性に対するようなときめきではない。
 女が男に対して抱く印象が「良い人」だという場合―、えてして、その男の恋が成就する見込みは限りなく薄い。何故なら、良い人というのは人畜無害ということを意味しており、そこに愛だ恋だのといった恋愛感情が芽生える余地は皆無だからだ。
 伊勢次が心底から自分のことを想っているのは十分すぎるほど判っていた。だからこそ、お彩は伊勢次の度重なる告白と求愛に決定的返事をすることができないでいたのだ。だが―、伊勢次からの求愛を受けてから、そろそろ一年になろうとしている。そのうちに返事をとつい先延ばしにしている中に、いつしか一年という年月が経ってしまった。
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