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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】  其の壱
 お彩が店の中に戻ると、主の喜六郎が奧の板場から声を張り上げた。
「お彩ちゃん、すっかり遅くなっちまって済まなかったな」
「いいえ、今は一年中でもかきいれ時なのは判ってますもの。私、これでも張り切ってるんですから」
 お彩も明るい声で応えると、喜六郎が板場から出てきた。
「とは言っても、こんな時分に若い娘一人で夜道を帰らせるわけにはいかねえ」
 喜六郎の大仰な物言いに、お彩は肩をすくめて見せた。
「嫌ですよ。旦那さん、『花がすみ』から家まではほんの眼と鼻の先だっていうのに、わざわざ心配して頂くようなことはありませんって。それに、今時分は、まだ随明寺の夜桜見物から帰る人がこの界隈はいますから」
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