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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】  其の壱
「友達にお兄ちゃんか。これは完敗だな」
 伊勢次は呟くと、また、ぼんのくぼに手をやった。これが伊勢次の進退窮まったときの癖だとは、お彩は知らない。
「判ったよ、お彩ちゃんの気持ちは判った」
 そう言った伊勢次の顔をお彩は改めて見つめた。
「やっぱり、怒ってるんですか?」
 お彩にまじまじと見つめられ、伊勢次は困惑したような笑みを見せた。
「一つ訊いても良いかい?」
 その真剣な面持ちに、お彩は思わず頷いていた。伊勢次は少し躊躇うような素振りを見せた後、視線を逸らした。
「やはり、あの男が原因なのか?」
 ややあって発せられた問いに、お彩は硬直した。
 あの男がそも誰を指すのかは、お彩には判りすぎるほど判る。お彩は唇を噛んだ。
「―」
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