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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】  其の弐
【其の弐】

 薄紅色の風がそよそよと池の面を渡り、汀の桜を優しく揺らす。お彩は江戸の桜の名書図絵にも載っているといわれる随明寺の桜をそっと見上げた。随明寺の境内は広く来、山門から入ると、金堂、三重ノ塔を横目に見て通り過ぎた先に、更に開祖の浄徳大和尚を祀る奥ノ院、その傍らに絵馬堂が佇む。
 奥ノ院の傍らに通称「大池」と呼び倣わされる池があり、そのほとりに名物の桜の巨樹があった。樹齢も定かではない桜の大樹が数本、並んで植わっているのだが、この時季はそれこそ、桜が一斉に花開いた様は圧巻といか言いようがない。遠方から見れば、その辺りが薄桃色の霧に包まれているように見える。
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