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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】  其の弐
 お彩はこれまで陽太がそんな風に怒ったのを一度も見たことはなかった。陽太はいつも穏やかな微笑み、お彩を親鳥のように包み込んでくれる存在だったのだ。
「間違ってるとは思わないわ」
 お彩は陽太の真剣なまなざしを怖れるように、視線を逸らせた。
 が、陽太はお彩の顎を掴み、強引に自分の方に向かせた。
「私がお前さんを暇つぶしに相手にしているだけだと?」
 お彩は陽太から顔を背けたまま、黙り込んでいた。陽太の声がわずかに震えていた。
―怒らせてしまった。
 苦い後悔がお彩を苛んでいた。怒らせるつもりなんか、これっぽっちもなかったのに。逢いたくて逢いたくて、夜毎、陽太の面影を瞼に切なく蘇らせ、泣きながらいつしか眠り込んでいたのに。
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