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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】 其の弐
だが、陽太にも言ったとおり、お彩は自分の言葉があながち激情に駆られてのものだけだとは思えない。数カ月に一度、気紛れに現れ、一瞬で去ってゆく男。確かに口づけをしたことはある。あれは、丁度一年前、そう、伊勢次からの求愛を受ける少し前のことだ。
「花がすみ」の売上金を盗ったと小巻から決めつけられて、お彩は懊悩していた。和泉橋のたもとで川に映る花影を見ていた時、陽太がふいに現れた。あの日もこんな風に桜が眩しいほどに咲き誇っていて、桜の樹の下で二人は烈しい口づけを交わした。最初はついばむような軽いものが、徐々に深まっていったのだ。陽太はまるで貪るようにお彩の唇を奪った―。それは、あたかも陽太のお彩への想いを象徴するかのようであった。
あの一瞬、確かにお彩は陽太と心を重ね合ったように思っていたけれど、あれは所詮、お彩だけの思い過ごしだったのだろう。
「花がすみ」の売上金を盗ったと小巻から決めつけられて、お彩は懊悩していた。和泉橋のたもとで川に映る花影を見ていた時、陽太がふいに現れた。あの日もこんな風に桜が眩しいほどに咲き誇っていて、桜の樹の下で二人は烈しい口づけを交わした。最初はついばむような軽いものが、徐々に深まっていったのだ。陽太はまるで貪るようにお彩の唇を奪った―。それは、あたかも陽太のお彩への想いを象徴するかのようであった。
あの一瞬、確かにお彩は陽太と心を重ね合ったように思っていたけれど、あれは所詮、お彩だけの思い過ごしだったのだろう。