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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第16章 第七話 【雪花】 其の壱
 この真冬に赤銅色に日焼けした大男は、茹鮹のような色に顔を染めてまくし立てた。
「済みません」
 お彩は気のない声で言うと、また悄然と歩き始めた。
 正直、何も考えられるような状態ではなかった。陽太があの大店京屋の主人であったという信じられない事実に、ただただ呑まれているといった感じだ。今でもまだ、たった今見たばかりのあの光景が現実のものだとは俄には信じられないのだ。
 陽太という名が真のものではないということも知っているはずだったし、お彩が「陽太」について知っていたのは、偽りの名ただそれだけであった。互いに強く求め合い惹かれ合いながら、お彩は惚れた男について一切知らず、また知らされていなかった。
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