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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第16章 第七話 【雪花】 其の壱
「おう」
 伊八は陽によく灼けた精悍な顔をほころばせた。四十一になった今でも、長屋の女房はむろん、出入りする先々の女たちからの熱い視線を集めるほどである。長身で苦み走った男前、しかも口数も少なく朴訥なところがまだ謎めいているように見えるらしい。実際には、人付き合いや喋るのが苦手なだけなのだと娘のお彩は父のことをよく心得ているが、伊八のような男ぶりも良い男は黙っているだけでサマになるらしいから、つくづく見栄えの良い男は得だ。
「来たのか」
 伊八は掌中の玉と愛でる一人娘を見て、早くも相好を崩している。女たちの憧れをかき立ててやまない伊八のこんな笑顔を見たいと切望している女がどれほどいることだろう。
 そのことを、肝心の伊八はとんと知らない。
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