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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話  【椿の宿】
 それが今から二カ月ほど前の、江戸に初雪が降った日のことであった。あれほど恋い焦がれた男と漸く晴れて結ばれたというのに、お彩の心では歓びよりも、むしろ、不安の方が大きく渦巻いていた。
 いや、まだしも結ばれる前の方が少なくとも陽太の心を信じられていたような気がする。たとえ陽太が自分の真の名すら明かさず、大店の旦那だという身分を偽っていたときでさえも、お彩は少なくとも陽太が自分に向けるその想いだけは真のものだと信ずることができた。
 だが、お彩は陽太と身体を重ねれば重ねるほどに、その心が余計に見えなくなるように思えるのだ。そう、まるで月並な台詞だけれど、陽太と我が身の拘わりが身体だけの繋がりのように思えてならないのである。
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