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第19章 第八話　　【椿の宿】

　男親にとって娘という存在は格別で、とりわけ可愛い。
　だから、喜六郎も伊八の父親としての心持ちはよく判るつもりだ。
　つとめて普段どおりにふるまおうとするお彩の姿がかえっていじらしかった。喜六郎は娘を見る父親のようなまなざしで気遣わしげにお彩を見ていた。
　お彩はもう紅絹の紐を襷掛けにして、狭い店の内をくるくると動き回っている。一見いつもと何も変わらないように見えるだけに、お彩をよく知る喜六郎は、お彩が無理をしているのが判った。喜六郎は、やるせない想いで店中を忙しそうに走り回っているお彩の姿を見守っていた。