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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話  【椿の宿】 其の弐
―いっそのこと、もう一度だけ。
 そんな未練な想いがふっとお彩の中をかすめたその時、伊勢次の屈託ない声がお彩の白昼夢を破った。
「ちょっと良いかな」
 伊勢次はお彩にとも板場にいる喜六郎にともなく言った。
 と、奧の方から喜六郎の声が即座に応じた。
「オウ、昼時分の忙しいときも終わったことだし、俺の方は一向に構わねえよ」
 板場にいる喜六郎から伊勢次の姿は見えないはずだけれど、長年の常連である伊勢次の声を喜六郎が聞き誤ることはなかった。が、喜六郎は一年も顔を出さなかった伊勢次に対して、その理由を訊ねようともせず、まるで昨日顔を見たばかりのような態度で接した。
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