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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話  【椿の宿】 其の弐
 到底、惚れた女に男が求婚するときの甘やかな期待に満ちた響きはなかったけれど、そのときのお彩には、市兵衛の言葉に込められた不機嫌さを感じ取ることはできなかった。
 そんなことより烈しい衝撃が彼女を打ちのめしていたのだ。まさか、この期に及んで、市兵衛が所帯を持とうと言い出すとは考えてもいなかったのである。
「祝言を挙げよう。もう誰にも何も言わせねえ。二人で一緒に暮らすんだ」
 お彩は愕いたように眼前の男を見つめ、それから、狼狽したように烈しく首を振った。
「駄目よ」
 市兵衛が立ち上がった。じっとお彩を見つめる。市兵衛の美しい眼に射すくめられて、お彩は小刻みに身を震わせた。
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