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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話  【椿の宿】 其の弐
 お彩は心の中で先刻の市兵衛の言葉を反芻した。
―先代の旦那から京屋の婿養子にと望まれていながら、そんな縁談なぞきれいさっぱり断って、お絹さんと二人で端からやり直してえと。
 母お絹が市兵衛の初恋の女性であることは、初めて市兵衛に抱かれた日、彼自身から聞いていた。しかし、まさか、母と市兵衛との間にそこまでの事情があったとは!!
 が、それはともかくとして、自分は市兵衛に何ということを言わせてしまったのだろうと思った。
 京屋ほどの大店ともなれば、奉公人の数も多く、たとえ主人とはいえ、その一存やいっときの感情だけで主の座を放り出すことが許されようはずもない。
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