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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
「本日は、どうもありがとうございました。またご贔屓のほどお願い申し上げます」
伊八は女主人の愛想の良い声を背に、古着屋を後にし、風呂敷に包んだその晴れ着を後生大切に小脇に抱えて家路を辿った。今まで父親として贈り物の一つしてやった憶えのない伊八だったが、娘の歓ぶ顔を想像すると自然に顔がほろこんでくる。伊八はお彩の笑顔を瞼に思い浮かべながら、家路を急いだ。
その数日後、伊八はやはりこの前辿ったのと同じ道を歩いていた。伊八の懐には布にくるまれた簪があった。この数日間、伊八が丹精込めて作った品である。
江戸の町の上には鰯雲がひろがっていたが、今日も晩秋らしい穏やかな陽差しが降り注ぐ午後であった。伊八は幾ばくかの逡巡を見せた後、思い切ったように「ゆめや」の暖簾をくぐった。
伊八は女主人の愛想の良い声を背に、古着屋を後にし、風呂敷に包んだその晴れ着を後生大切に小脇に抱えて家路を辿った。今まで父親として贈り物の一つしてやった憶えのない伊八だったが、娘の歓ぶ顔を想像すると自然に顔がほろこんでくる。伊八はお彩の笑顔を瞼に思い浮かべながら、家路を急いだ。
その数日後、伊八はやはりこの前辿ったのと同じ道を歩いていた。伊八の懐には布にくるまれた簪があった。この数日間、伊八が丹精込めて作った品である。
江戸の町の上には鰯雲がひろがっていたが、今日も晩秋らしい穏やかな陽差しが降り注ぐ午後であった。伊八は幾ばくかの逡巡を見せた後、思い切ったように「ゆめや」の暖簾をくぐった。