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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
市兵衛の逞しい腕の中で乱れて身体は情熱と欲望に火照っていても、心は裏腹にしんと冷える。逢瀬を重ねれば重ねる度に、市兵衛が遠ざかるような気がしてならず、自分の方から別離を切り出したのは今年の弥生の初めであった。その少し前に去年の卯月以来、お彩を避け続けてきた伊勢次とは和解できたのだが―。
元々、喧嘩別れをしたわけではなかった。異性としての恋慕とは違うけれど、兄のように慕わしく思っていた伊勢次と絶縁状態になったことは、お彩にとっては辛いことだった。それが伊勢次の方から言ったのだ。
―たとえ、お彩ちゃんが誰に惚れていようと、俺は構わねえ。つまらねえことで意地を張って、これまでのお彩ちゃんとの付き合いを全部棒に振るようなことになるのは馬鹿らしいと思ったんだ。
元々、喧嘩別れをしたわけではなかった。異性としての恋慕とは違うけれど、兄のように慕わしく思っていた伊勢次と絶縁状態になったことは、お彩にとっては辛いことだった。それが伊勢次の方から言ったのだ。
―たとえ、お彩ちゃんが誰に惚れていようと、俺は構わねえ。つまらねえことで意地を張って、これまでのお彩ちゃんとの付き合いを全部棒に振るようなことになるのは馬鹿らしいと思ったんだ。