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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱
お彩にとっては嬉しい台詞だった。再び昔のように気安く言葉を交わし合うようになって、お彩の心は随分と軽くなった。
市兵衛の面影は今でも忘れようもなく、夜半に見る夢の中にも市兵衛はしばしば現れた。一面に果てなく続くだだっ広い野原を幾ら歩いても先が見えない―、いつしかはるか彼方に佇む人影が見え、お彩は懸命にその人に近付こうとするのだが、一向に近付けないという、そんな夢だ。
夢の最後はたいてい決まっている。人影が何故か顔だけは、はっきりと見えた瞬間、その人が市兵衛だと判るのだ。が、恋しい男の名を叫んだ途端、夢は覚めてしまう。ハッと目ざめて夜具の上に起き上がった時、いつもお彩の頬は涙で濡れていた。
市兵衛の面影は今でも忘れようもなく、夜半に見る夢の中にも市兵衛はしばしば現れた。一面に果てなく続くだだっ広い野原を幾ら歩いても先が見えない―、いつしかはるか彼方に佇む人影が見え、お彩は懸命にその人に近付こうとするのだが、一向に近付けないという、そんな夢だ。
夢の最後はたいてい決まっている。人影が何故か顔だけは、はっきりと見えた瞬間、その人が市兵衛だと判るのだ。が、恋しい男の名を叫んだ途端、夢は覚めてしまう。ハッと目ざめて夜具の上に起き上がった時、いつもお彩の頬は涙で濡れていた。