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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】  其の壱
 喜六郎は丁度、夕飯に出す食材を買いに出ている。「花がすみ」に来る道すがら、八百屋に行く喜六郎と擦れ違ったのかもしれない。伊勢次は殊の外頼もしく、しん助に後に残って、喜六郎に事情を話して欲しいと頼んだ。
 お彩が頷くまもなしに、伊勢次は走り出した。お彩自身は走っているというよりは、伊勢次に引っぱられていると言った方が良かった。
 甚平店と「花がすみ」は眼と鼻の先だ。ひとっ走りもしない中に見慣れた粗末な棟割り長屋が見えてきた。
 お彩の眼にどっと涙が溢れた。伊八は腕の良い職人で、稼ぎも良かった。本当なら、こんなボロ長屋に住む必要は全くなかったのだ。
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