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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】  其の壱
 おきわの方は眼がもう真っ赤で半泣きの状態で、到底話になりそうもなかったからだ。
 が、茂助の方も眼は充血していて、今にも泣き出しそうだった。それでも男らしく気丈に父のことを教えてくれた。茂助、おきわ共にお彩の二親と同年輩である。幼い頃からよく見知った仲であった。
「つい今し方、慶竹先生が帰られたばかりなんだがな」
 柴田慶竹は町医者で、まだ二十代の若さだが、長崎で最新の阿蘭陀医術を学んできたというだけあり、優れた外科医である。その父親の慶安もまた優秀な医者で、貧しい人々からは治療代や施薬代は取らぬということで大変慕われた名医でもあった。
 茂助が小声で耳打ちした話によれば、伊八は今日の昼過ぎに町人町の大通で荷車に轢かれたらしい。しん助の語ったとおりだった。
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