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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第22章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】  其の壱 
―おとっつぁんもなかなか隅に置けないわねえ。
 もし父が生きてこの場にいれば、思い切り冷やかすこともできるのに。
 お彩はこの時、伊八が亡くなってから、初めての涙を流した。
 お彩は心から小文に礼を言った。
「ありがとうございます。でも、その簪はやはり、あなたが持っていて下さった方が多分、父は歓ぶと思うんです。私には何となく父の気持ちが判るような気がします。だって、父が女のひとに自分の作った簪を上げたのは私の母以外にはいなかったと、いつか父自身が言っていましたから。惚れた女以外には自分の作った簪は贈らないのだと」
 刹那、「ゆめや」の女主人の美しい貌が歪んだ。その形良き双眸に涙が宿るのを、お彩は確かに見た。
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