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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―
 お彩の住む長屋は貧相な棟割り長屋であった。お彩が生まれ育った甚平店もやはり似たような裏店であり、お彩は家を出るまでそこで父親と二人暮らしていた。
 長屋の木戸口を通り、家の手前まで来た時、お彩の歩みがふっと止まった。灯りもついてはおらぬ、しんと静まった家。
「ただいま」
 声に出してみても、当然ながら返事はない。そろそろ夜は冷えるようになってきたけれど、家の中の空気は身を震わせるように冷たかった。自分は孤独なのだという想いが更にその冷たさを増してゆく。
 無性に家に帰りたいと思った。しかし、たとえ帰ったとて、また同じことの繰り返しだ。父は黙って家を飛び出した娘を何ら変わりなく迎えてくれるだろうが、お彩は到底まともに父と顔を合わせることはできなかった。
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