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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 市兵衛は京屋の親類縁者に反対する者も多い中、終始、強硬な態度で押し切った。京屋の遠縁に当たる同業に相良屋という小店があるが、その相良屋の主人吉右衛門だけは唯一、この結婚に反対しなかった。というのも、吉右衛門の一人息子綸太郎が荷車に轢かれそうになったのを辛くも助けたのがその女の父伊八であったからだ。伊八はそのときの負傷が因で亡くなった。いわば、相良屋吉右衛門には市兵衛やその女に負い目があったのだ。
 市兵衛とその女―お彩は新しい年を迎えた早々、京屋で祝言を挙げた。幸菱を織りだした白無垢を身に纏った可憐な花嫁は二十歳、美男の市兵衛と金屏風を背に並んだ様は似合いの夫婦雛のようで、まさに華麗な絵巻物を見るようであった。花嫁の眼のさめるような美しさに、人々は陰でこっそりと
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