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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 淡い宵闇に、ほのかに紅に染まった花たちがひそやかに浮かび上がっていた。隙間もないほどにたっぷりと重なりあった桜花たちの上に銀に輝く眉月が浮かんでいる。
 やがて空はすっかり夜の色に染まった。煌々と輝く月とその光を受けて雲母色に染まった桜。お彩は魅入られたように、そのこの世のものとも思えぬ美しき眺めを見つめた。
 夜桜には狂気を秘めた危険な美しさがある。その人の心を惑わせるような艶麗さには、市兵衛の類稀な美貌に通ずるものがあった。
 そういえば、と、突如としてお彩の中に懐かしい記憶が蘇る。京屋に嫁いでくる前まで、お彩は「花がすみ」という一膳飯屋で働いていた。お彩には、今のようにじっとしているよりは身体を動かしている方が性に合っている。
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