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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 市兵衛が帰宅したのは、既に有明の月が見える頃であった。その時分には流石にお彩は布団に入っていた。その夜もいつものようになかなか眠れなかったのだが、布団の中で幾度も寝返りを打った挙げ句、いつしか浅い眠りに落ちていた。
 ふと枕許に人の気配を感じ、お彩は眼を開いた。
「お帰りなさい」
 お彩は上半身を起こし、まだ少し眠気の残る眼で良人を見上げた。と、突如として強い力で引き寄せられ、お彩は身を強ばらせた。
「お前さま―」
 市兵衛の吐く息が酒臭い。逞しい身体からはかすかに白粉の匂いが漂った。
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