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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
 お彩が怖いと感じるのは、市兵衛の心の中の闇そのものだった。普段は思いやりのある優しい男が、怒るとただそれだけでまるで夜叉のように冷酷になる―。それは恐らく市兵衛の与り知らぬ無意識の中で切り替わる人格だろう。そのことを咎めることは誰にもできないのかもしれない。
 でも、そんな男をこれから先の長い生涯、良人として愛することができるのだろうか。
 お彩は自問自答した。
 そして、ふいに昨夜の閨での市兵衛の荒々しい態度を思い起こした。まるで別人が市兵衛に乗り移ったかのようなあの変わり様。所帯を持つまでにも市兵衛が烈しく求めてきたことは幾度もあったけれど、あんなお彩の心を無視した一方的な行為ではなかった。
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