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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第26章 第十一話 【螢ヶ原】  其の弐 
 お彩はうつむくと、消え入りそうな声で言った。
「私、今まで伊勢次さんに黙っていたことがあるんです」
 お彩ははたと顔を上げ、伊勢次を真っすぐに見つめた。
「私―、身ごもってるんです」
 ありったけの勇気をかき集めて言った。
 刹那、伊勢次の丸い顔から人の好さそうな笑みが消えた。やはり、伊勢次さんを怒らせてしまった、と、お彩は哀しかった。
 しかし、それも当然のことだ。突如として転がり込んで居候を決め込んだかと思えば、その次は懐妊していると言えば、たとえ伊勢次ではなくとも愕くというよりは呆れるだろう。少なくとも、伊勢次の顔にはいつもの彼らしくない憤りが表れている。
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