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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】  其の参 
 市兵衛にとって所詮、自分はその程度の存在でしかなかったと思い知らされた気がする。江戸随一の大店であり老舗であるという面目に傷をつけるわけにもゆかなかったのだろうが、仮にも女房が行方知れずになったというのに、番所にも知らせてはいないというのは、およそ考えられない。
 結局、市兵衛にしろ、京屋の人間たちは皆、厄介者の内儀よりも店の暖簾を大切に考えたのだ。
 近所に小さな八百屋があって、気の好い中年の夫婦がやっている。お彩はちょくちょくそこで野菜を買った。その帰りに、丁度すれ違った棒手振りの魚屋から鰯を買ったのである。
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