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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】  其の参 
 市兵衛の美しき瞳の奧で燃えるのは、冷たい焔だ。けして身を焦がす熱い焔ではなく、触れた者の魂まで凍てこごえさせるほどの。
 お彩は、市兵衛に手首を掴まれたその場所から、自分の身体が本当に凍ってゆくようにさえ思えた。
 沈黙を守り通すお彩に焦れたように、市兵衛が言った。
「とにかく話は帰ってからだ」
 掴んだ手首にいっそうの力がこもり、お彩を引きずってゆこうとする。
「お前さま、こんなことは止めて下さい。私はもう京屋へは帰りません。そのつもりであの家を出てきたんです」
 お彩は連れてゆかれまいと、必死でその場に踏んばったが、市兵衛の力には所詮、かなうはずもない。半ば引きずられながら、悲鳴のような声を上げた。
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