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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参
それは、お彩の長らく抱えていた疑念でもあった。
一体、何故、市兵衛が〟陽太〝という昔の名で、ある日ふいに「花がすみ」の客としてお彩の前に現れたのか。そのことに、お彩はずっと疑問を感じていた。
お彩を見て、お絹に似ていると嬉しげに笑った市兵衛を見た時、その想いは決定的なものになった。市兵衛は自分の中に、亡き母の、初恋の女の面影を追い求めているのだと。
市兵衛は皮肉げに口の端を引き上げた。
「お前を必要としていると言ったのは嘘じゃねえ。お絹さんではなく、お前のことを私は妻として必要としているんだ。―もっとも、今のお前には、そんなことは、どうでも良い話だろうがな」
一体、何故、市兵衛が〟陽太〝という昔の名で、ある日ふいに「花がすみ」の客としてお彩の前に現れたのか。そのことに、お彩はずっと疑問を感じていた。
お彩を見て、お絹に似ていると嬉しげに笑った市兵衛を見た時、その想いは決定的なものになった。市兵衛は自分の中に、亡き母の、初恋の女の面影を追い求めているのだと。
市兵衛は皮肉げに口の端を引き上げた。
「お前を必要としていると言ったのは嘘じゃねえ。お絹さんではなく、お前のことを私は妻として必要としているんだ。―もっとも、今のお前には、そんなことは、どうでも良い話だろうがな」