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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参
市兵衛が踵を返そうとしたその瞬間、ふとお彩を振り返った。そのときの市兵衛の顔を、お彩は一生忘れないと思った。瞳に浮かぶのは哀しみでもなく、淋しさでもなく、孤独でもなく―、ただ虚ろな闇が果てしなくひろがるだけにすぎなかった。
無限の闇を映した瞳で、市兵衛は氷のように微笑んだのだ。それは、見る者の心を一瞬にして氷らせる、美しいがゆえに、余計に人間離れした不吉なほどの美貌であった。
もしかしたら、自分は取り返しのつかないことをしたのかもしれない。お彩は愕然とその場に立ち尽くした。
今日という日、市兵衛は再び自分の心を殺したに相違ない。他ならぬお彩の言葉が鋭い刃となり、市兵衛の心を刺し貫いたのだ。苦い悔恨の情と深い哀しみが一挙に押し寄せ、お彩はへなへなとその場に座り込んだ。
無限の闇を映した瞳で、市兵衛は氷のように微笑んだのだ。それは、見る者の心を一瞬にして氷らせる、美しいがゆえに、余計に人間離れした不吉なほどの美貌であった。
もしかしたら、自分は取り返しのつかないことをしたのかもしれない。お彩は愕然とその場に立ち尽くした。
今日という日、市兵衛は再び自分の心を殺したに相違ない。他ならぬお彩の言葉が鋭い刃となり、市兵衛の心を刺し貫いたのだ。苦い悔恨の情と深い哀しみが一挙に押し寄せ、お彩はへなへなとその場に座り込んだ。