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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参
人の心を一瞬にして凍らせる氷の男と、傷ついた心をも癒し溶かすような春の陽だまりのような男。まさに、市兵衛と伊勢次は対照的な人間であった。そして、今、お彩は伊勢次についてゆこうとしている。
伊勢次は、お彩の胸をよぎった躊躇いをすぐに見抜いたようであった。
「気にしなくて良い。たとえ形だけは夫婦(めおと)になったとしても、俺はお彩ちゃんがその気になるまで、いつまでも待つよ。だから、そのことを心配しなくても良いよ」
どこまでもお彩を気遣う伊勢次の優しさが今はただ、傷ついた心に滲みた。しかし、京屋市兵衛からの正式な離縁状がないままであれば、二人は未来永劫、晴れて世にも認められた夫婦とはいえない。たとえ市兵衛とは別れても、お彩は、このままでは、ずっと、京屋市兵衛の妻である。
伊勢次は、お彩の胸をよぎった躊躇いをすぐに見抜いたようであった。
「気にしなくて良い。たとえ形だけは夫婦(めおと)になったとしても、俺はお彩ちゃんがその気になるまで、いつまでも待つよ。だから、そのことを心配しなくても良いよ」
どこまでもお彩を気遣う伊勢次の優しさが今はただ、傷ついた心に滲みた。しかし、京屋市兵衛からの正式な離縁状がないままであれば、二人は未来永劫、晴れて世にも認められた夫婦とはいえない。たとえ市兵衛とは別れても、お彩は、このままでは、ずっと、京屋市兵衛の妻である。