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第28章 第十一話　【螢ヶ原】　　其の四　

　漸く簡素な藁葺き屋根の家が視界に映ると、伊勢次が駆けてくるのが見えた。
「どうしたんだ、あんまり帰りが遅いから、心配したぞ」
　仕事に出る前の伊勢次の額には汗が光っている。畑仕事をするようになって、伊勢次の丸い顔は更に陽に灼け、仕事のきつさからか、丸い輪郭を描いていた頬や顎は肉が削げ鋭角的になった。子どもっぽさを残した面影はもうなく、ちょっと見では別人のように精悍さを増した。
「ごめんなさい。心配かけちまって。これでも頑張って急いで歩いたんだけど。どうにも早く歩けないものだから」
　お彩が素直に謝ると、伊勢次は真顔で言う。