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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
 折しも今は十六年前と同様、薄紅色の花を開かせた睡蓮が池の面を飾っている。長い星霜に苔むし風化した小さな墓石は、ますます道端の石ころにしか見えなくなってしまっている。その前でしばし手を合わせてから、また、来たのと同じ道をゆっくりと辿って家に戻るのだ。
 お彩と伊勢次は辻堂の近くに小さな仕舞屋を借りている。猫の額ほどではあるけれど、庭もついていて、家の前には枇杷の樹が一本植わっていた。これは、二人がここに来たときから既にひっそりと佇んでいて、もう樹齢も判らないほどなのだという。
 少し歩いただけで汗まみれになり、息が上がるので、ゆっくりと進んでは休み、また、進んでは休みを繰り返すことになり、刻を要してしまうのはいつものことだった。
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