パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第28章 第十一話　【螢ヶ原】　　其の四　

　お彩の眼に涙が溢れた。
「お願いだから、もう焦らすのは止めてくれよ」
「そんな、焦らすだなんて―」
　お彩は、思いかけぬ言葉に抵抗を止めた。
　伊勢次がそんな風に思っていたなんて、考えたこともなかった。だが、確かにお彩の考えが甘すぎる、虫が良すぎると言われても仕方のないことかもしれない。
　れきとした亭主のある身で、あまつさえ身ごもっている女と夫婦(めおと)約束し、その子どもまで我が子として引き受けようという伊勢次の申し出を、お彩は受け容れたのだ。そして、その伊勢次の心だけを受け取って、夫婦のふりをするだけでは伊勢次も浮かばれないのは当然だろう。