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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
 しかも、伊勢次の言うように、伊勢次はもう長い間、お彩の身体に指一本触れずに過ごしてきたのである。少なくとも伊勢次は〝待つ〟と言った約束は守ったといえるだろう。
 これでは、伊勢次が自分の心をお彩が弄んでいる―と言っても、致し方ない。
 お彩は改めて、眼前の男の貌を見た。江戸を出てから、見違えるように精悍さを増した伊勢次は、良人としても申し分ないだろう。
 何より、思いやり深く、優しい。お彩がずっと夢見ていた温もりのある家庭を与えてくれた。これ以上、伊勢次を拒むことは許されないように思えた。
―お彩ちゃん、どれだけ一緒にいても、俺たちは、けして近付くことはできねえのかい? 俺じゃあ、駄目なのか。
 無言の問いかけに、お彩は胸を衝かれた。
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