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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱
そして、男の正体が実は江戸でも屈指の大店呉服太物問屋京屋の主人市兵衛だと知った直後、お彩と市兵衛はついに結ばれた。出合茶屋で幾度も逢瀬を重ねた挙句、お彩は自分たちの関係に疑問を持ち、自ら市兵衛に別離を申し出た。
一度は切れたかに見えた市兵衛との縁(えにし)の糸は実はずっと繋がっていて、お彩は父伊八の亡くなった翌年の正月明けに市兵衛の正式な女房として京屋に迎えられた。時にお彩は二十歳になっていた。その市兵衛との結婚に最後まで反対していたのが伊勢次であった。伊勢次は腕の良い左官で、「花がすみ」の常連の一人だった。
もしあの時、お彩が市兵衛と共に生きる道を選んだりしていなければ、伊勢次があのような悲惨な最期を辿ることもなかったはずだ。
一度は切れたかに見えた市兵衛との縁(えにし)の糸は実はずっと繋がっていて、お彩は父伊八の亡くなった翌年の正月明けに市兵衛の正式な女房として京屋に迎えられた。時にお彩は二十歳になっていた。その市兵衛との結婚に最後まで反対していたのが伊勢次であった。伊勢次は腕の良い左官で、「花がすみ」の常連の一人だった。
もしあの時、お彩が市兵衛と共に生きる道を選んだりしていなければ、伊勢次があのような悲惨な最期を辿ることもなかったはずだ。