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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱
伊勢次は端からお彩と市兵衛の恋を危ぶんでいた。
―あの男だけは止すんだ。
伊勢次は何度もお彩に求愛し、所帯を持って欲しいと告げたのに、お彩はその度に断ってきた。それでも、伊勢次は気を悪くする風もなく、お彩をずっと陰ながら見守り続けた。
伊勢次が市兵衛を嫌っていたのは、何も嫉妬心からだけではなく、市兵衛に何か得体の知れぬ暗い翳を感じるからだと伊勢次は言っていた。あの男と拘わりを持てば、お彩は必ず不幸になると。
お彩自身もその不安を心のどこかでは抱いていた。だが、その何という根拠もない不安よりも市兵衛に惚れている自らの気持ちに正直に生きようとしたのである。そのことが結果として伊勢次を死に追いやることになってしまった。
―あの男だけは止すんだ。
伊勢次は何度もお彩に求愛し、所帯を持って欲しいと告げたのに、お彩はその度に断ってきた。それでも、伊勢次は気を悪くする風もなく、お彩をずっと陰ながら見守り続けた。
伊勢次が市兵衛を嫌っていたのは、何も嫉妬心からだけではなく、市兵衛に何か得体の知れぬ暗い翳を感じるからだと伊勢次は言っていた。あの男と拘わりを持てば、お彩は必ず不幸になると。
お彩自身もその不安を心のどこかでは抱いていた。だが、その何という根拠もない不安よりも市兵衛に惚れている自らの気持ちに正直に生きようとしたのである。そのことが結果として伊勢次を死に追いやることになってしまった。