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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱
その夜、お彩は皆が寝静まった頃、一人外に出た。
長屋の住人が共同で使う井戸端に座り、井戸から汲んだ水を頭から被った。二月の井戸から汲み上げたばかりの水は、身体の芯まで凍えるかのように冷たい。それでも、お彩は唇を噛みしめ、何度でも冷たい水を被った。
どこかから、かすかに芳しい匂いが流れてきて、お彩は、ふと我に返った。あまりの水の冷たさに、四肢の感覚どころか、意識さえもが遠のいてゆくようであった。それでも、不思議なことに、頭の芯は徐々に覚めてゆき、心は無になってゆく。
お彩は祈った。心の中で、ただ一心に自らの願いを神仏に向かって祈り続けた。
今のお彩にできることは、ただこれだけなのだから。
長屋の住人が共同で使う井戸端に座り、井戸から汲んだ水を頭から被った。二月の井戸から汲み上げたばかりの水は、身体の芯まで凍えるかのように冷たい。それでも、お彩は唇を噛みしめ、何度でも冷たい水を被った。
どこかから、かすかに芳しい匂いが流れてきて、お彩は、ふと我に返った。あまりの水の冷たさに、四肢の感覚どころか、意識さえもが遠のいてゆくようであった。それでも、不思議なことに、頭の芯は徐々に覚めてゆき、心は無になってゆく。
お彩は祈った。心の中で、ただ一心に自らの願いを神仏に向かって祈り続けた。
今のお彩にできることは、ただこれだけなのだから。