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WHITE TIGER
第1章 memory
母親が亡くなって、身寄りがなくなって、そんな舞を支えようとした。

舞の支えになろうとした。

なのに、いきなり表れたあの男が舞を拐った。

だけど、舞の心は俺じゃなくてあの男に…っ。





俺が彼女と同棲してたという噂。

1度だけ舞が俺に助けを求めて部屋にやって来た。

大雨の夜に、体中を怪我しながらボロボロになって俺の元に逃げ込んで来た。

そのまま数日間、俺と舞は一緒に住んでた。

恐らくその時の事を言ってるのだろう。


誰かにどこかで見られていたのか、それとも嬉しさのあまり俺が誰かに喋ってしまったのか、噂の発信源はわからないが。



だけど、1度はこの手の中に舞はいたんだ。

一瞬だけだが、俺は夢見心地だったんだ。

でも、結局はあの男に…っ!



「くっ…」

キュッと蛇口を捻り水を止めた。

なのに、俺の心の中の封印していた思い出の氾濫は止まらない。

止まらない上に、どんどん息苦しくなっていく。

鏡に移るのはびしょ濡れになった情けない自分の顔。



「情けねぇ…」



情けない。


まだ舞を忘れられず、思い出の中の舞の笑顔に掻き乱されて

呆れるぐらい愛してる情けない男の顔だ。




はぁ、と溜め息を着きながらそんな自分に込み上げる笑いを我慢していると






━━━━「よぅ。永野!」

「あ…、宮野先輩」

「どうした?死にそうな顔して」





そこにやって来たのは俺の先輩である宮野 義人さん。

-みやの よしと-30歳。

俺の直属の先輩で営業のノウハウを俺に叩き込んでくれた人。

この人がいるから今の俺があると言っても過言じゃない先輩だ。


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