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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第9章          

「ヴィヴィっ、いい加減にしなさい! やる気がないのなら出て行って!」

 早朝のリンクに轟いた、ジュリアンの厳しい言葉。

 その時になってやっと、はっと我に返ったヴィヴィを、

 クリスを含め、一緒に練習している仲間達が、何事かと振り向いていた。

(あ、れ……私、今、何して――)

 確か数分前まで、スピンのポジションを調整していたはずだった。

 けれど、その後の記憶は――

「私……すみませ――」

 おたおたと弁解しようとするヴィヴィだったが、

「ヴィヴィ、こっちへ来なさい」

 そうサブコーチに呼ばれ、しょうがなくそちらへと足を向けた。

「今日はもう上がりなさい」

 厳しい顔のサブコーチに、焦ったヴィヴィが口を開く。

「だ、大丈夫です。私、まだやれます!」

「集中できない時に無理に滑ったら、怪我するだけだよ。いいから今日は上がって、ストレッチしてなさい」

 サブコーチのもっとも過ぎる指摘に、ヴィヴィは言葉を詰まらせた後、静かに了承して氷の上から降りた。

 エッジカバーをはめて、小さな観客席となっているベンチに腰を下ろす。

 外から見たリンクは、薄く靄(もや)がかかって見えた。

 暦の上では もうすぐ夏だというのに、梅雨が明けきらず湿度が高いのだろう。

「………………」

(まるで、私の心の中みたい……。靄がかかって出口が分からない――自分の事が、解らない……)

 あんな妄想に至ってしまったのは、単なる気の迷い――

 そう己に言い聞かせているのに、自分の心はざわざわと音を立てて彷徨い、理性がコントロールしようとするのに追いつかない。

 匠海に合わせる顔がなかった。

 実兄である兄を、あんなはしたない妄執の相手にしてしまった事が申し訳なかった。



 それからというもの、ヴィヴィは匠海を避けるようになった。

 タイミングの良いことに、期末試験が迫っていた。

 屋敷の中でも「勉強を教えてもらうから」と言ってクリスの部屋に入り浸り、常に彼と行動を共にしていた。

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