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ブルジョアの愛人
第14章 狂器の姿

階下へ降りると、祖母の姿はなかった。祖父は石材所のパートに出掛けている。案の定、ダイニングテーブルには保険会社から貰ったメモ用紙が置いてあった。

『買い物に行ってきます。四時頃には帰ります。』

祖母のひどく右上がりなくせ字にも慣れた。普段はこんなふうに話さないくせに、紙面上では妙に他人行儀になる癖にも。

いちいち声を掛けるのが面倒なのか勉強している莉菜への配慮なのかは分からないが、伝言の方が正直莉菜もありがたい。

集中力が途切れなくて済むということもあるが、祖母の甲高い声で階下から呼ばれると苛々するのだ。何もしていないのに怒られているようで気分が悪い。

祖母がいないことに少しほっとした莉菜は、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出した。勉強机に置くと邪魔になるので、飲み物の類いは自室に持ち込んでいない。

コップいっぱいに注いだ緑茶は、からからの喉に切ないほど沁みた。ソファに腰掛け、手持ち無沙汰にテレビのリモコンを握る。一人で静かな家にいると虚しくなるのだ。

取り敢えず、と思って替えたチャンネルでは、昼の奥様ドラマを放送していた。夜の街で男と女が見つめ合っている。莉菜は思わず身を乗り出した。
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