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あの子のとりこ
第1章 幼馴染
「…もうこんな時間」
へたり込んだままボンヤリ時計を見上げた。
だいぶ時間が経ったのか、空は夕焼けに染まっている。
気が抜けたままの状態で校舎を後にした。
ガチャー…
アパートに辿り着くと、布団へ顔をうずめた。
頭の中は生徒指導室で起こった惨事でいっぱいだった。
まだ恋愛と言うものも未経験なナナミには、思い出しただけで顔から火が出そうだ。
(星川先生があの恭一兄ちゃん…あたしの事を好きって…)
恭一からもらったメモ紙を見つめて赤くなる。
(恭ちゃん……)
ーー施設へ連れてこられたのは3歳の誕生日が過ぎた辺りだ。
玉突き事故で運転席と助手席に乗っていた父と母は、還らぬ人となった。かろうじて後部席のあたしは怪我はしたものの、1人生き残ったのだ。
両親の葬式が済んだ頃に、親戚に引き取られたもののたらい廻しにされ、叔父と呼ぶ人に虐待されその後、施設に連れていかれた。
そこで出会ったのが10歳年上の恭一兄ちゃんだー…
「光の家」は恭一兄ちゃんのお父さんが運営している児童養護施設。お父さんもお母さんも職員の人達も、小さなあたしを自分の子供の様に接してくれていた。
でも事故のショックと虐待の恐怖から、大人に対してうまく心を開けずにいたのだ。
その時ーー
「ナナミちゃんて名前なんだ?」
「………」
「はいっ!これあげる」
恭一兄ちゃんの手のひらにはキレイな包み紙の飴があり、思わず手を伸ばす。
包み紙がなかなか開けれずにいると、そっと口に入れてくれた。
甘酸っぱくて優しい味が口に広がる…
「っ…うぇぇん…パパぁ、ママぁ…!」
それまでジッと我慢してたモノがどっと溢れ出した。
ずっと泣きじゃくるあたしの背中を、恭一兄ちゃんがさすってくれていた。
それからは兄妹のようにあたしはベッタリだった。
恭一兄ちゃんもひとりっ子だったから、妹の様に接してくれて…
「恭ちゃん…」
あの日の事が遠い昔の事のようだ…
そんな事を考えながら、いつの間にか眠りについた。