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冷たい月を抱く蝶
第3章 偽りの家族の肖像

11歳の誕生日を迎えるその日の前日、私は父の前でピアノを弾いた。
父はバッハの曲「主よ人の望みよ喜びよ」と言う曲が好きだった。
私はお義父様を喜ばそうと、ピアノで習ったその曲を彼の前で弾いた。
ガッカリさせないよう、鍵盤に向かって一生懸命ピアノを弾いた。
暖かい日差しが射し込む窓辺で、私は鍵盤を指先で鳴らす。
音を一つ一つ紡ぐように、かろやかで優雅な旋律の音色を奏でた。
深みがある音色は綺麗な音を響かせた。その旋律は心が愛に満たされるような、とても暖かな響きだった。
私は父に感謝の思いを込めて弾いた。お義父様は椅子に座ったまま、私の方をジッと見ていた。
時おり目を瞑って、その旋律を穏やかな表情で聴いているようだった。
最後まで弾き終わると指先を止めた。
父は私のピアノの演奏を聴き終わると、暖かな拍手をしてくれた。
そんな父の拍手に、私はピアノの前で顔が少し照れたのだった。

