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第3章 接近

エロエロ妄想に取りつかれた私は、仕事がおろそかになっていった。月次の業務でありえないケアレスミスを犯し、身が引き締まる思いをして謝罪し、反省した。
「まぁ、ミスは誰にでもあることだから」
「申し訳ありません」
注意力が落ちているのは欲求不満のせい。それは自分ではよくわかっていた。そんな自分が情けなくて情けなくて、久しぶりに落ち込んだ。

「大丈夫だよ、千代は普段めったにこういうミスしないんだし～」
「ありがとね……。けどめげるわー」
その日の帰り、同僚の遥香が飲みに誘ってくれて、いつものあのランチをするカフェ『パラダイス』で軽く飲むことになった。このカフェは夜になると少しムーディな雰囲気になり、お酒も飲める。落ち込んでいる私は、ワインを結構飲んだ。

「でもさ、なんか心配。やっぱ千代なんかおかしくない？最近」
「うーん、おかしいのかも、しれないねぇ」
「酔ってるー？気を付けて帰ってねー」
「はーい。ほんとありがと。また来週ねー」

遥香は駅の反対側のホームへと去っていった。1人で電車を待っている間に、酔いが回ってくる。目の前に澤田さんが現われて、とうとう幻覚まで見るようになってしまったのか……と思った。

「あれぇ？澤田さん……」
「えっ……？」

彼が声を出した時、それが幻覚じゃないことに気付いてハッとした。ほ、本物だ……ヤバい！！

「え、と……、どちら様でしたっけ」
「あっ、あっ、あの……っ、すみません！」
もうワケがわからない。名前を言ってしまったことは取り返しがつかない。けどなんて弁解したらいいのやら、酔った頭が回らない……。
「あ、いえ、どうしてオレの名前……、どこかでお会いしてましたっけ」
「あっあっあのっ」
目の前に彼がいて喋っているということが、ひどく恐ろしく感じられた。なんという運命の悪戯。よりによってこんなに酔っている時に、初めて駅で一緒になるなんて……。
「ご、ごめんなさい……」
「えと、いえ、謝られるようなことは、何も」
めっちゃ困っている様子の王子に、なんとか説明しなくてはと必死で酔いを抑え勇気を出してみた。もうこの際だ、変な人だとは既に思われているんだ！と。