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【マスクド彼女・序】
第5章 四日目・五日目【表側の景色と裏側の闇】

「……」


 窓から庭を眺める。綺麗に刈り揃えられた芝生は青々としていて、良く晴れた日であったが陽射しは柔らかく感じられた。

 エアコンを用いなくとも、屋敷の屋内に不快な暑さはない。東京の暑さに慣れたせいか。軽井沢にある別邸を取り巻く空気は、ひんやりとして何処か懐かしくもあった。

 白木静音(しらき しずね)は、有名女子大の二回生。大学が夏季休業に入ると、中学高校時代の一時を過ごしたこの別邸に、自然とその足を向けていた。


 正直――此処によい想い出は、ない。


 そう言ってしまえば、語弊もあった。楽しく過ごした時期も、確かにあったのだろう。だが、それらの場面を思い浮かべることは、静音にはなかった。否、思い浮べることはできなかった。


 父の突然の死――それを期に、全ては変わっている。


「……!」


 今、静音が居る部屋は、亡き父の書斎。難解な経済書が居並ぶ棚に、ふとその写真を認めた。それを飾る木製の写真立てを、そっと手に取る。


「……」


 じっと見つめ、何かを想う――静音。


 中央に父が――それを取り囲む家族の写真。豪快とも思える笑顔の父にその肩を抱かれて、高校生の静音もはにかんだように笑みを零している。

 その自分の横――一人だけ遠慮気味に離れて立つ、姿を見た。


「……」


 不意に静音は、その細い眉根を寄せる。


 胸に黒猫を抱く、少女? ――の、その顔が、真っ黒に塗りつぶされていた。
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