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【マスクド彼女・序】
第5章 四日目・五日目【表側の景色と裏側の闇】

 その時、背でドアが開いた。


「静音――帰っていたのか?」


「お兄様――」


 兄である白木孝次郎(しらき こうじろう)は、妹の静音と十近くも歳が離れている。既に板について久しい濃紺スーツの上下は、その大柄な身体を鎧のように包んでいた。


「珍しいのですね。今日は余暇を――?」


「そんな筈なかろう。仕事の合間で、立ち寄ったまでだ。まだ学生のお前と、一緒にされては困るな」


「それは随分と、失礼いたしました」


「……」


 兄の孝次郎は、投げやりのようにも見える、その妹の態度を気に掛ける。


「お前、こんな処で――何をしている?」


「別に……なにも」


「では、何故――こんなものを」


「あ……!」


 手から写真立てを奪われ、静音が細やかに声を漏らした。

 一方の孝次郎は、その写真をまじまじと眺め、あからさまに舌打ち。


「まだ、あったのか――顔を塗りつぶすくらいなら、捨ててしまえばよかろうに」


 しかし、静音は――


「いいえ……捨てるわけには、参りません。何故なら――」


「んん?」


「あの子から顔を奪ったのは――他ならぬ、この私、なのですから……」


 きゅっと唇を噛むようにして、その眼差しは何処か遠く――。
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