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Room S.C.
第1章 中学生ミカ
 白い半袖の体操シャツに丈の短いトレパンを履いたヘルメットの少女が、自転車の横で途方に暮れていた。
 そこは私の家の前の細い生活道路の先で、近くの小中学校へ通う生徒や、同じく近くのJR駅を利用する人達の通り道で、朝から意外と人通りの多いところである。一方で道幅が狭いので車はほとんど入って来ず、したがって通勤通学のための道路と言っても良かった。

「おはよう、どうしたの?」
 私は気さくに声を掛けた。
「あ、おはようございます。自転車のチェーンが外れちゃって……」
 少女は私にペコリと頭を下げてそう言った。
 この近くの中学校では挨拶励行に力を入れている。最近では青少年を標的にした性犯罪も多いが、それ対する対応策ということもあるのだろう、道ですれ違う生徒達は大きな声で「おはようございます」「こんにちは」と、見知らぬ私のような者にも声を掛けてくる。だから少女が私に応じたのも不思議ではなかった。
「どれ、おじさんに見せてごらん」
 そう言って私はゴミの袋をその場において自転車を見た。
 少女の自転車は確かにチェーンが外れ、しかも困ったことにそのチェーンがフレームとスプロケットの間に食い込んでいた。試しに指で引っ張っても出てこない。
「これは道具が要るな……」
 私はつぶやきながら立ち上がった。そうして少女に向かって言った。
「ちょっとそこのおじさんの家までおいで。道具が必要だから」
「えっ、でも……」
 少女が逡巡した。確かに見知らぬ人間に突然家まで来いと言われたら誰だて警戒するだろう。
 だがグズグズしていたら少女が遅刻してしまう。こちらとしては好意からだったが、いささか考えが足りなかったと言わざるを得なかった。少女は少し怯えたように身を固くしていたのだった。
 そこへやはりゴミ出しに来た近所のおばあさんに声を掛けられた。
「あら、どうしたんですか?」
「いえね、この娘の自転車がチェーンが外れたらしくて……」
 私が説明する。
「それは困ったねえ。お嬢ちゃん、この人はご近所さんだから見てもらうといいよ」
 おばあさんがそう言ってくれて少女も警戒心を解いたようだった。少女はゴミ出しを終えた私の後ろを自転車を押してついて来た。
 だが付いて来るとは言っても我が家はつい目と鼻の先、距離にして100mもないから少女も拍子抜けしたようだった。
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