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Room S.C.
第1章 中学生ミカ
 私の家のカーポートは屋根付きで2台停められるようになっている。だが普段は私の軽自動車を1台しか停めていな。その空いているところに少女に自転車を止めさせた。私は工具箱からドライバーを取り出してきた。チェーンをコチャコチャとこじって外し、スプロケットにはめ直した。その間、ものの2~3分だったろう。
「ほら、直った」
 私が言うと少女の顔が明るくなった。
「ありがとうございます!」
「でも、少しチェーンが伸びてるね。あとで自転車屋さんに調整してもらうといいよ」
「はい! ありがとうございました。行ってきます!」
 明るい笑顔を残して少女は元気よく自転車を漕いで行った。私はその後姿を微笑ましく見送ったのだった。
(私にも子供がいたらあれくらいの歳かな……)
などと考えたが、よく考えたら私はすでに50を越えている。子供ではなくて孫の方が近いかもしれない。

 3年前離婚した妻との間には子供はなかった。彼女が欲しがらなかったのだ。私としてはどちらでも良かったので無理に子供を作ろうとしなかったが、こうして一人で暮らしていると「子供がいたら」と思うことが多々あった。
 特に50になってからの転勤が嫌で辞表を出した私は、ここには生まれた時から住んでいる。ご近所は皆、顔見知りである。いい年をしたオジサン、いや初老の男が一人で暮らしているのを近所の人達は半ば憐れむような目で見ている。だから私は息を潜め、ひっそりと静かに、目立たぬように暮らしていた。
 そんな私にとってこの朝の出来事はちょっとした事件だった。だが相手の少女にとってはどうでもいい、直ぐに忘れてしまうことに違いない。
 そう思うと寂しいことだが、まあ、人生なんてそんなもんだろうと思っていた。そうしてあの名も知らぬ少女と再び会うこともあるまいと思っていたのだった。

 そんな私は日曜日に隣町のデパートへ久々に来ていた。日課にしていた図書館通いも興味のある本を粗方読んでしまっていて(田舎故に蔵書が少ないのだ)行く気にならなかったので、気分転換も兼ねて久々に出かけることにしたのだった。
 その書籍売り場で専門書をパラパラと眺めていたら突然声を掛けられた。
「あの……」
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